2011/07/26

Junior Championship report

私がジュニアだった時代は、日本のジュニア選手権の参加者は10人台で、しかも麻布生ばかりでした。私が参加した6回のジュニア選手権では、同時優勝も含め、高橋礼二、中郡慧樹、南條遼介、小島慎也、上杉晋作といった面子が並んでいます。

それが近年は、30人近くの参加者が関西や海外から集まり、ただ驚くばかりです。昔に比べ、優勝者のレーティングはやや下がっていますが、多くのジュニアが集まり切磋琢磨できる現在の環境のほうが、プレーヤーにとってベターであることは言うまでもないでしょう。

今年の優勝者、酒井、唐、建内というメンバーはリスト1~3で、順当と言えば順当な結果でした。昨年に比べれば、驚くようなアップセットは少なかったですが、それでも会場内を見て回っていると興味深いポジションに出くわすものです。
星野(華)-石川

この局面で黒の石川君はドローオファーをしていました。実際ゲームは以下のように続きます。

1.Kb5 Kh6 2.Kc4 Kg5 1/2-1/2(?)

星野さんはキングサイドにキングを寄せるのを危険だと判断し、ここで安全にドローにしました。しかし実際には白が勝つことができます。

1. Kd3 (1. Kd5 Kh6 2. Ke5?! b5 3. axb5 a4 4. b6 a3 5. b7 a2 6. b8=Q a1=Q+ このようにしてもおそらく白が勝つでしょうが、白は難しいクイーンエンディングにする理由がありません。) 1... Kh6 2. Ke3 Kg5 3. Ke4 Kh6 4. Kf4!
これで白はgポーンを進めることができます。

4...Kg7 (4... b5 5. axb5 a4 6. b6 a3 7. b7 a2 8. b8=Q a1=Q こちらのクイーンエンディングはチェックがかかっていないために、白は自由に指すことができ、上の変化に比べてずっと楽です。) 5. g5 Kh7 6. Kf5 Kg7 7. g6 Kg8 (7... Kh6 8. Kf6 c4 9. g7 c3 10. g8=Q c2 11. Qg6#) 8. Kf6!
白は先にプロモーションができるため、キングがスクウェアを外れても問題ありません。もちろん先に8.h6 でもOKです。

8...c4 9. h6 c3 10. h7+ Kh8 11. Kf7 c2 12. g7+ Kxh7 13. g8=Q+ Kh6 14. Qg6#

もう一つ、面白いポーンエンディングがありました。こちらは昨日、吉祥寺チェスクラブでも検討のネタになりました。
志茂-木下

1... e5!

白キングをクイーンサイドに寄せないようにする好手です。

2. f3 exf3??

私はこの手を見て、黒が勝ちのチャンスを逃し、白がドローに持ち込めると判断しました。しかし昨日、吉祥寺チェスクラブで、将棋の森内プロに白勝ちなのではないかと指摘され、事実その通りでした。(森内さん、ありがとうございます。そして暁星の皆、ごめん!)

2... b5! 3. fxe4 a4 4. Kf3 b4 5. Ke2 b3 6. axb3 a3-+

3. Kxf3 b5 4. Ke4 Ke6 5. h4 Kd6 6. g4 a4 7. h5! gxh5 8. gxh5 Ke6 9. Kf3??

これはひどいブランダーで、再び黒勝ちになってしまいます。正しい白勝ちの変化は、以下の通りです。

9. h6!
私はこの手を見落としていました。 9...Kf6 10. h7 Kg7 11. Kxe5 Kxh7 12. Kd5 Kg6 (12...b4 13. Kc4 b3 14. axb3 axb3 15. Kxb3 Kg6 16. Kc4 Kf5 17. Kd5+-)13. Kc5 Kf5 14. Kxb5 Ke4 15. Kxa4 Kxe3 16. Kb5+-

9. Kd3? 私がメインで考えていたのは、こちらの手です。これでは白は勝ち切れず、ドローになります。 9...Kf5 10. Kc3 Kg5 11. Kb4 Kxh5 12. Kxb5 Kg4 13. Kxa4 Kf3 14. Kb5 Kxe3 15. a4 Kf2 16. a5 e4 17. a6 e3 18. a7 e2 19. a8=Q e1=Q=

9... Kf5!?

9... b4! 10. Ke2 b3 11. axb3 a3-+ で黒はプロモーションできます。

10. e4+ Kg5 11. Ke3 Kxh5 12. Kd3 Kg4 13. Kc3 Kf4 14. Kb4 Kxe4 15. Kxb5 Kd4

15... Kd3 ならば、白はキングを寄せることができず、簡単に黒勝ちです。

16. Kxa4 e4 17. Kb3 e3?
黒は最後の17... Kd3! のチャンスを逃しました。

18. Kc2 Ke4 19. Kd1 1/2-1/2

エンドゲームは大変難しく、何度も間違って覚えていくものです。ジュニアの皆さんも頑張ってください。最後に私がジュニア選手権を二日間見ていて、協会に物申したいことをまとめておきます。もちろんこれらは、私たちプレーヤーも協力すべきことです。

・ジュニアプレーヤーに、競技のチェスについてもう少し教えること
ジュニアに多いことですが、大変早指しのプレーヤーが一部にいます。中には時間を増やして負けてしまうプレーヤーもおり、これは大変もったいないことです。チェスの指し方は指導者が教えるべきですが、日本の現状では指導者のいないジュニアが多いため、協会からもう少し指し方のアドバイスをしても良いでしょう。早指しで負けてしまうプレーヤーは、多くの試合で早く終わるため、参加者をきちんと見ていれば分かるはずです。

もう一つは検討戦についてです。ジュニアたちは試合が終わると検討をせずに休憩に入ることが多いようです。競技のチェスでは試合後に検討をすることがマナーなので、それを教えてあげる必要があります。今回は私が二日間会場にいたため、子供たちを集めて検討戦を行いましたが、当然私一人で全ての子供の面倒を見られるはずもないですし、プレーヤー同士で試合中にどんなことを考えていたか、話し合うことに意味があるので、私が全てを教えてしまってはあまり意味がありません。快速選手権の反省でも書きましたが、チェス協会の仕事は、会場を用意してプレーヤーを集めるだけで終わって良いはずありません。競技チェスのマナーに詳しくないジュニアプレーヤーには、試合中、試合後にどうしたら良いかというアドバイスを、協会のスタッフからしてもらいたいと思います。

・回収した棋譜を何かしらの形で有効活用すること
ジュニア選手権では、棋譜をプレーヤー両者に提出させることを義務付けています。これを何か活用するのか、スタッフに聞いたところ、「棋譜はJCAの財産だから回収しており、pgn化したりはしない」という謎の回答が返ってきました。公開する気がないならば棋譜を回収する意味はありませんし、子供たちの勉強にも繋がりません。今回、私がたまたま見かけた2つの局面をブログで扱いましたが、他にも面白い試合はたくさんあったはずです。それを協会の資料に埋もれさせてしまうのは、あまりに勿体ありません。協会にはどういった形でも良いので、回収した棋譜を有効活用してほしいと思います。

・ジュニアプレーヤーを他の大会へ参加するよう促す、もしくはジュニアプレーヤーが参加しやすいクラスを作ること
これは以前から言われていることですが、ジュニア選手権に参加した大勢のジュニアプレーヤーたちは、他の大会にほとんど参加していません。ジュニアのレベルアップ、そして日本のチェス活性化のためには、彼らが他の大会に参加してくることが必須だと私は考えます。ジュニアが他の大会に参加しにくい理由があるのであれば、協会はそれを探し、解決する必要があるはずです。最初に書いたとおり、ジュニアの参加者が増えていることは喜ばしいことですが、それで満足してしまってはいけません。

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