2014/02/28

Looking for Good Ways to Compete with Your Rivals

中学校入学の直前に初めてチェスに出会った私も、チェスとの付き合いが13年を超えようとしています。この13年という時間を聞いて、とても長いと感じる人も、まだまだこれからだと感じる人もいるでしょう。私自身には判断はつきかねますが、今後も自分はチェスと関わりながら生きていくだろうと信じています。

そんな私がこの13年間でこなしてきた試合は、棋譜をとったラピッド以上の持ち時間のゲームで、2000試合弱と言ったところでしょうか。多くのプレーヤーと数えきれないほどの試合をこなす中で、少しずつ実力を伸ばしてきました。そして、そんな私の成長の中で欠かせないのは、何名かのライバルと呼べる存在たちです。

今日、この記事を書くにあたり、ライバルというのはどういったものかと改めて考えてみました。例えば、Carlsen のレイティングが2800を超えたことをすごいとは思っても、彼に負けていられないと思うプレーヤーは、世界でもトップの一握りだけでしょう。あまりに実力が離れていれば、ライバルとは呼びづらいはずです。そこを踏まえると、ライバルというのはレイティングが比較的近く、切磋琢磨し合うことができ、負けたくないという思いを抱く存在ではないかと思います。私にとっては様々な成長過程において、誰がライバルかというのは変化してきましたので、現状で私がライバルと考えるプレーヤーを紹介してみようと思います。紹介するのはライバル度数順(?) ではなく、単に年齢順です。いつものタイトル、国、レイティングのほかに、生まれ年も表記しておきます。


Nanjo Ryosuke (JPN, 2307, 1988)

私がチェスを始めて13年ということは、同級生の南條くんとの付き合いも13年ということになります。麻布学園チェス部入部当初から、アメリカでの試合経験で磨かれた実力と、鋭いチェスのセンスとを持っていた彼の存在は、12歳でチェスを始めた私やチェス部の同期、そして先輩方に大きな刺激を与えたことでしょう。南條くんに負けたくないという気持ちが、中高時代の私の1つのモチベーションであったことは間違いありません。

彼との試合は13年間で80試合以上となり、FIDE 公式戦に絞るとJapan League で私の1敗3ドロー、全日本選手権で1勝8ドローと、完全に五分五分の戦績です。レイティングが多少離れた時期もありますが、彼が昨年のジャパンオープンで全勝優勝したことで国内レイティングは2400台に乗り、明日からのカペルでもFIDE レイティングを稼いでくると信じています。大学生活最後となる今年、ノルウェーでは頼れるチームメイトとしてともにプレーしつつ、どういった将来へのチェスのプランを持ち、どんなゲームを見せてくれるのか、楽しみにしておきます。


Ikeda, Junta (FM, AUS, 2338, 1991)

惇多くんとは2006年に東京で初めて出会い、翌年にシンガポールで再会。それからしばらく交流はありませんでしたが、2011年にアメリカの大会でともに過ごして以来、ライバルとして強く意識するようになりました。オーストラリアの代表と、私と同じIM のタイトルを狙う彼は、昨年から1年間京都大学に留学し、日本のチェス界に貢献してきました。昨年の全日本選手権で優勝し、私が南條くんから取り戻したかった日本チャンピオンのタイトルは、現在彼の手にあります。

そんな惇多くんも、今月で1年弱の日本滞在を終え、オーストラリアへと帰っていきました。京都での生活は非常に有意義だったと思いますが、チェスのトレーニングという点では、やはりオーストラリアのほうが多くの刺激を受けられるはずです。4月のオーストラリアの大会では、3つ目のIM ノームに手が届くか、そしてレイティングを2300台後半に戻せるかに注目したいと思います。


Sean, Winshand Cuhendi (FM, INA, 2364, 1997)

チェスのライバルは必ずしも日本人とは限りません。ハンガリーでの留学生活中、しのぎを削り合ってきたプレーヤーたちは、ライバルと呼ぶにふさわしい存在です。ハンガリーで過ごした計1年間の生活の中で、最も交流が多く、また密に試合をしたのがインドネシアのSean でした。2か月の間に同じプレーヤーと計5試合のFIDE 公式戦をこなすことは、今後もめったにないでしょう。直接対決は私が多く勝ち越していますが、私がハンガリーを去った後の戦績で、レイティングは抜き返されています。

Sean は昨年の秋に15歳になったばかり。アジアの強豪国、インドネシアの代表にはまだ実力が足りませんが、この若さと成長速度を考えれば、将来はさらなる活躍が期待できるでしょう。10代前半で親元を離れ、遠くヨーロッパの地でチェスの腕を磨くという彼のガッツとチェスへの情熱も、日本のプレーヤーには見習ってほしいですね。彼も現在はハンガリーを離れて帰国したようですので、来年のインドネシアオープンか、その他のアジアのトーナメントで再会を果たしたいです。


Abdumalik, Zhansaya (WIM, KAZ, 2379, 2000)

今日紹介するプレーヤーで、最も若く、最もレイティングが高いのが彼女、カザフスタンのWIM Abdumalik です。彼女のヨーロッパ遠征は現在も継続中のようで、今月は Gibraltar でレイティングを稼ぎ、いつの間にか私やSean より上に来ています。女子のU14 ランキング世界1位であることは知っていましたが、男子を含めても世界2位のようですね。末恐ろしい...

Abdumalik とはこれまでの記事で書いてきたとおり、チェコのトーナメントで1勝1敗。特にBrno Open では、私を破った彼女が優勝したため、リベンジを誓った翌週のPilsen Open での再戦は、自分でも信じられない程に燃えました。(そこできっちり戦績をタイに戻しながら、最終戦でコケるところが私の甘いところです。) 直接対決の結果や大会での順位、そしてレイティングで競るというのは、いかにもライバルのようですね。今後もカザフスタンの女子代表として、そしてこの世代トップクラスのプレーヤーとして、周りのプレーヤーたちをリードしていってほしいと思います。

自分が不調時にライバルが活躍すれば、大きな劣等感を抱いたり、自分のプレーを見失ったりと、悩むことも多いでしょう。しかし、そういった悩みこそ、成長のためには欠かせないものですので、ライバルの存在は時に疎ましくとも、必要なものだと思います。年齢、レイティング、関わり方、どういった形でも良いですので、日本のプレーヤーには良いライバルを見つけて、切磋琢磨していってほしいですね。

ちなみに今回、もう1人紹介したかったプレーヤーがいましたが、良い写真が手元になかったので諦めました(笑) IM ノームを7つもっているプレーヤーだと言えば、誰のことか分かる人は分かるでしょう。その人については、また別の機会に。

2014/02/27

Cappelle la Grande 2014


毎年恒例、フランスのカペルで開催される国際大会が、今年もいよいよスタートします。招待枠が例年の4つから6つに増えた今年、日本からの参加者たちは今夜、フランスへと向かいます。私はシェンゲン協定の関係で参加を見送りましたので、6名の日本人プレーヤーたちには、私の分までカペルでのプレーを楽しんできてもらいたいですね。今年のメンバーは以下の通りです。

Nanjo Ryosuke (2307)
Noguchi Koji (2086)
Nakamura Naohiro (2075)
Kobayashi Atsuhiko (2033)
Shinoda Taro (1909)
Sakai So (1859)


今年は珍しく、カペル初参加者がおらず、全員が経験者です。一昨年、この大会で好調をアピールした南條くんや野口さんが、今年はどのようなプレーを見せてレイティングを上げるか、そしてやはり2年ぶりの尚広くんが、今年は一体何人の女子プレーヤーを引き当てるのか、といったことに注目したいと思います。ちなみにInvited Players の中には三ツ矢さんの名前もありますが、これは運営側のミスであると確認済みです。

さらに他国のプレーヤーをチェックすると、大体いつも通りの上位陣ですが、リスト1は中国のGM Ding Liren でしたね。かつて先輩のWang Yue が制したこの大会、中国からの優勝者を久々に出そうと乗り込んでくるのでしょう。他にも中国勢の名前はいくつか見つけることができます。他にも私がかつて対戦したマスターたちもちらほらと見かけますし、ハンガリーからは若き3人のGM Erdos, Banusz, Fodor が参加するようなので、彼らの結果もチェックしたいですね。

今年のカペルは8日間の日程で、初戦は日本時間、3/2(日)の午前0時にスタートします。それでは、日本から参加する皆さん、悔いのないプレーをしてきてください!

Cappelle la Grande 2014 Official HP


2014/02/26

Chess in Georgia Vol.2


今月、Bronstein Memorial で優勝した、グルジアのGM Jobava Baadur(左), Chess News より

私にとって2度目の大きな国際大会は、2006年の5月、イタリアのトリノで開催されたオリンピアードでした。その際、私はどこかのサイトで見たことのある顔を試合会場で見つけますが、それが誰だったか思い出せません。佐野さんにそのGM が誰かを尋ね、答えを聞いてなるほどと納得しました。それはグルジアの現No.1 GM、Jobava Baadur でした。

Jobava は1983年生まれ、グルジアで唯一の2700台プレーヤーです。顔こそ2006年に覚えたものの、他の2700台に比べて少しプレーの印象が薄く、どんなプレーヤーなのかは長らく興味を持っていませんでした。それが今年のTata Steel Group B で彼を見かけ、ゲームをチェックしているうちに、そのオープニングのチョイスにたまげました。昨年からの試合もチェックしてみましたが、Jobava のチェスはまるで、オープニングのアドバンテージなど勝敗には何も関係ないと言っているかのようです。

Jobava, B (GM, GEO, 2710) - Bok, B (GM, NED, 2560)
Tata Steel (Group B) (10)

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Be2!?



私はライブを見ていて、「そんなのありかい!」と思わずパソコンにつっこみそうになりましたが、Jobava はこのオープニングを今月も使い、Bronstein Memorial でも勝利を収めています。Reversed Phildor (あまり聞きませんが) のような形になるので大きな問題はありませんが、白で積極的にアドバンテージが取れるとは思えません。

3... Nf6 4. d3 d5 5. Nbd2 Bc5 6. c3 a5 7. a4 O-O 8. O-O Re8 9. h3 h6 10. Qc2 b6 11. Re1 Bb7 12. Nf1 Bd6 13. Ng3 Ne7 14. Nh4 c5 15. Bg4 c4 16. dxc4 Nxe4 17. Rxe4 dxe4 18. Bxh6 Bc5 19. Rd1 Qc7 20. Qc1 e3 21. Bxe3 Bxe3 22. Qxe3 Qxc4 23. Nh5 Qe4 24. Qg5 Ng6 25. Kh2 Bc8 26. f3 Qc2 27. Rd6 Bxg4 28. hxg4 Kh7 29. Nxg6 fxg6 30. Nf6+ gxf6 31. Rd7+ Kg8 32. Qxf6 1-0



途中、怪しげな駒捨てをバシバシと行い、最終的にはオランダのホープ、Bok のキングを捕まえました... もう1つ、今年のTata で感心したのは、Jobava の以下のゲームです。

Jobava, B (GM, GEO, 2710) - Zhao, X (GM, CHN, 2567)
Tata Steel (Group B) (3)

1. d4 Nf6 2. Nc3!?



今度は1. d4 でスタートし、しかもトップGM ではほとんど見られない2. Nc3 です。(Bok 戦よりも前のラウンドですが) Jobava は、この大会、1. d4, 1. e4, 1.b3 の3種類の初手を使い、いずれも勝利を収めています。

2... d5 3. Bf4 a6 4. e3 e6 5. Nf3 c5 6. a3 Nc6 7. h3 b5 8. dxc5 Bxc5 9. Bd3 Bb7 10. O-O Bd6 11. Re1 O-O 12. Bxd6 Qxd6 13. e4 dxe4 14. Nxe4 Nxe4 15. Bxe4 Qe7 16. Qd2 Rfd8 17. Qf4 Na5 18. Bd3 Qf6!?


ここでクイーンをぶつける手自体は悪くなかったはずです。しかし、このクイーン交換でポーンストラクチャーを乱したことが、後々エンドゲームで影響を与えます。それにしても、このポジションを見ると、一風変わったオープニングでしたが、割と普通の局面に落ち着いています。

19. Qxf6 gxf6 20. Nd2 Rac8 21. b4 Nc4 22. Nxc4 bxc4 23. Bf1 Rd2 24. c3 Bd5 25. Re2 Rxe2 26. Bxe2 Kf8 27. Rd1 f5 28. Rd4!



駒を捌き、少し形勢が怪しくなってきました。黒はc4 の孤立ポーンが負担になり、ピースを自由に動かすことができません。

28... Kg7 29. a4! Kf6 30. a5! h6 31. g3 Rc7 32. Kf1 Rc8 33. Ke1 Rc7 34. Kd2 Rc8 35. Ke3 Rc7 36. Bf3!


キングが上がった後は、ビショップを交換して十分に勝ちのチャンスを作れそうなルークエンディングに持ち込みます。

36... Bxf3 37. Kxf3 Rc6 38. Rd7 h5 39. Ke2 e5 40. Rb7 Ke6 41. h4 Rd6 42. Rb6 Kd5 43. Rxd6+!



このエンドゲームはどこかのレクチャーで使うつもりでしたが、もう今日の記事で紹介してしまいます。エンドゲームで最も複雑なのはルークエンディング、そしてシンプルなのはポーンエンディングです。勝ちのポーンエンディングだと見切ったならば、ルークは消してしまうに限ります。

43... Kxd6 44. f3 e4 45. Ke3 Kd5 46. Kf4 f6 47. Ke3!


このキングを戻す手でツークツワンクです。黒はポーンを取りにいくほかなく、パスポーンを作るという唯一の反撃のチャンスは失われます。

47... exf3 48. Kxf3 Kd6 49. Kf4 1-0



b4-b5 のブレイクスルーを防ぐため、黒キングはeファイルに寄ることができず、黒はfポーンを守ることができません。白がa5 までポーンを伸ばしたのは、このブレイクスルーのチャンスを作るためでした。

Jobava のゲームを見る限り、他にも怪しげなオープニングがたくさん飛び交っていますが、それでも彼は勝利を収め、2700のレイティングを維持しています。こうしたチェスが指せるのは、オープニングで相手の研究に付き合わずとも、ミドルゲームでのタクティクスやプランニング、そしてエンドゲームに自信があるからでしょう。オープニングばかり勉強しすぎと言われる日本のプレーヤーも、こうした幅広いプレーができると良いのかもしれませんね。これからEuropean Championship も始まりますし、今年はもう少し、Jobava や他のグルジアのGM のプレーにも注目してみようと思います。

Jobava Baadur (Chessgames)

2014/02/25

Interesting World Chess Records


ちょうど1年前、Kasparov の記録を抜いて歴代最高のFIDE レイティングを記録したCarlsen, The Chess World より

先日、Facebook の投稿で、チェスの試合の様々な記録に関した記事を発見しました。The Chess World というサイトの掲載された、25 Chess World Records Most People Don’t Know About という記事です。これまでの公式戦で指された最長、最短ゲームなどを始め、25の記録が公開されています。

25 Chess World Records Most People Don’t Know About

ちょっとしたチェスの雑学ではありますが、なかなか1つ1つチェックしていくと面白いものです。私は興味を持ったゲームについて、自分の手持ちのデータベースで検索して、棋譜に目を通してみました。今日はその一部をご紹介します。

(1) 最初の駒を取るまでの手数が、最長だったゲーム(Latest first capture)

Rogoff, K - Williams, A
Wch U20 fin-B (10), 1969

1. c4 Nf6 2. d4 c5 3. d5 e5 4. Nc3 d6 5. e4 g6 6. h3 Bg7 7. Bd3 O-O 8. Nge2 Na6 9. Bg5 Nb4 10. Bb1 Na6 11. Qd2 Rb8 12. Bd3 Qd7 13. Rg1 Nb4 14. Bb1 Ne8 15. a3 Na6 16. g4 Bf6 17. Bh6 Bg7 18. Bg5 Bf6 19. Bh6 Bg7 20. Be3 Kh8 21. Bd3 Nf6 22. Ng3 Ng8 23. Rb1 Qe7 24. f3 Bd7 25. Nb5 Ra8 26. Nc3 Rab8 27. Bc2 Qe8 28. Qd1 Qe7 29. Ba4 Bc8 30. Bc2 Bd7 31. Qe2 Bf6 32. Qg2 Bg5 33. Bf2 Bf6 34. Bd3 Nc7 35. Qf1 Ra8 36. Qe2 Rfb8 37. Kf1 Na6 38. Qd2 Bg5 39. Be3 Bh4 40. b3 Bf6 41. Rb2 Qf8 42. Qc1 Bd8 43. Bf2 Ba5 44. Na2 Bd8 45. Nc3 Qh6 46. Be3 Qf8 47. Rh2 h6 48. Rhg2 Ba5 49. Na2 Bd8 50. Nf5 Kh7 51. Bf2 Bg5 52. Ne3 Nc7 53. h4 Be7 54. b4 b6 55. Bg3 Qe8 56. Rb2 Bf8 57. Kg2 Bg7 58. Qd1 Qd8 59. Kh2 Be8 60. Rgg2 Na6 61. Bc2 Bf6 62. Qe1 Nc7 63. Re2 Bd7 64. Ng2 Qe8 65. Bf2 Ba4 66. Bb1 Bd7 67. Qd2 Bc8 68. Bc2 Ba6 69. Bd3 Bg7 70. Re1 Bc8 71. Qd1 Ne7 72. Ne3 Bf6 73. Nc3 Ng8 74. Qa4 Bd7 75. Qd1 Qe7 76. Ng2 Qd8 77. Bc2 Kg7 78. Ba4 Bc8 79. Bc6 Bb7 80. Ba4 Ne7 81. Bc2 Ba6 82. Bd3 Bc8 83. Qd2 Ng8 84. Reb1 Bd7 85. Kg3 Be7 86. Be3 Kh7 87. Qe1 Qc8 88. Kh2 Bf8 89. Bf2 Be8 90. Be3 Na6 91. Na2 Be7 92. Nc1 Bd8 93. Nb3 Ne7 94. bxc5



ストックホルムでのジュニアの試合で、94手目にしてようやく、白がポーンを取りました。こんな試合が隣で指されていたら、見入ってしまって自分のゲームに集中できないかもしれませんね(笑)

94... bxc5 95. Nc1 Ba4 96. Rxb8 Rxb8 97. Rxb8 Qxb8 98. Qc3 Nc8 99. Bc2 Be8 100. Nd3 Nb6 101. Nb2 Nd7 102. Ba4 Qb6 103. Kg1 Kg8 104. Bc6 Nab8 105. Bb5 a6 106. Ba4 Qa5 1/2-1/2


そしてドロー!

(2) キャスリングするまでの手数が、最長だったゲーム(Latest castling)

KNeshewat, M - Garrison, R
Detroit-ch MI (2), 1994

1. d4 Nf6 2. c4 c5 3. Nf3 cxd4 4. Nxd4 Qa5+ 5. Bd2 Qb6 6. Nb3 Ne4 7. e3 Qf6 8. Qf3 Qxf3 9. gxf3 Nxd2 10. N1xd2 Nc6 11. a3 d6 12. Be2 g6 13. Rb1 a5 14. O-O a4 15. Nc1 Bf5 16. e4 Be6 17. Rd1 Bh6 18. Kg2 Nd4 19. Bd3 Ra5 20. Nf1 Rg5+ 21. Ng3 Nxf3 22. b4 Bg7 23. Be2 Nh4+ 24. Kh1 Bh3 25. f4 Bg2+ 26. Kg1 Bxe4 27. Nd3 Bd4+ 28. Kf1 Rxg3 29. hxg3 Nf5 30. Rdc1 Nxg3+ 31. Ke1 Be3 32. Rd1 Nf5 33. Rb2 Bd4 34. Ra2 Ne3 35. Rc1 Ng2+ 36. Kf1 Be3 37. Rc3 Bd4 38. Rc1 Be3 39. Rb1 Nxf4 40. Rd1 Ne6 41. Nf2 Bf5 42. Bd3 Nd4 43. Bxf5 Nxf5 44. Ke2 Bh6 45. Ne4 Bg7 46. c5 dxc5 47. Nxc5 Nd4+ 48. Kf2 0-0



48手目にして、黒がキャスリング。これも確かに遅いですね。

49. Nxa4 e5 50. Nc5 Nb5 51. Rd7 b6 52. Rb7 Nc3 53. Rc2 e4 54. Rxb6 e3+ 55. Ke1 Rd8 56. Rc1 h5 0-1


そして10手かからず勝利! 渋いですね。

(3) もっともクイーンが盤上に多かったゲーム(Most queens on the board)

Szalanczy, E (IM, HUN, 2354) - Nguyen Thi Mai, H (WFM, VIE, 2213)
Budapest FS10 IM-B (2)

1. e4 c5 2. Nf3 d6 3. d4 cxd4 4. Nxd4 Nf6 5. Nc3 a6 6. Be3 e5 7. Nb3 Be6 8. Qd2 Nbd7 9. f3 Be7 10. g4 O-O 11. g5 Nh5 12. O-O-O Nb6 13. Kb1 Rc8 14. Rg1 g6 15. Qf2 Nc4 16. Bxc4 Rxc4 17. Nd5 Bxd5 18. Rxd5 b5 19. Qd2 Qc7 20. Rd1 Rc8 21. c3 Rb8 22. Bc5 Nf4 23. Bxd6 Bxd6 24. Rxd6 b4 25. cxb4 Rcxb4 26. Rd8+ Kg7 27. Rxb8 Qxb8 28. Nc5 Rd4 29. Qc2 Rxd1+ 30. Qxd1 Qb5 31. Na4 Nh3 32. Nc3 Qc4 33. Qd6 Qf1+ 34. Kc2 Qxf3 35. Qxe5+ Kg8 36. b4 Qg2+ 37. Kb3 Nxg5 38. Ka4 Nf3 39. Qf6 h5 40. Ka5 Nxh2 41. a4 Ng4 42. Qd8+ Kh7 43. Kxa6 Qg3 44. Nd5 h4 45. Qf8 Qf2 46. b5 h3 47. b6 h2 48. b7 h1=Q 49. b8=Q Qa1 50. Qbe8 Qg7 51. Qfe7 g5 52. a5 Nh6 53. Qc6 Ng8 54. Qec7 g4 55. Kb7 g3 56. a6 g2 57. a7 g1=Q 58. a8=Q



盤上に6つのクイーンです! この2人とは私もハンガリーで対戦したことがあるので、名前を見て少し笑ってしまいました。

58... Qb1+ 59. Nb6 Nf6 60. e5 Ng4 61. Qae8 Qff5 62. Qce7 Nh6 63. Kc7 Qbe4 64. Nd5 Qfxe5+ 65. Qxe5 Qgxe5+ 66. Qxe5 Qxe5+ 67. Kd8 Kg7 68. Ne7 Qb8+ 69. Kd7 Qa7+ 70. Kd6 Qa3+ 71. Kd7 Qd3+ 72. Ke8 Qh3 73. Qd5 Qg4 74. Qe5+ f6 75. Qd5 Qa4+ 1/2-1/2


そしてドロー! 最後のほう、Qff5 のような、あまり見ない手があるのが面白いです(笑) 最後に、この記事には載っていないおまけを私から追加です。私も参加したマレーシアの大会からです。

(4) 日本人の試合で(多分)、もっともクイーンが盤上に多かったゲーム

Sano, T (JPN, 2102) - Nadig, K (WGM, IND, 2241)
Kuala Lumpur op 5th (5)

1. e4 c5 2. Nf3 d6 3. d4 cxd4 4. Nxd4 Nf6 5. Nc3 a6 6. Be2 e5 7. Nb3 Be7 8. O-O O-O 9. Kh1 Nc6 10. f3 Be6 11. Be3 b5 12. a4 b4 13. Nd5 Bxd5 14. exd5 Na5 15. Qd2 Nxb3 16. cxb3 Qa5 17. Bc4 Nd7 18. Rfc1 f5 19. Be2 Kh8 20. Rc6 Nf6 21. Rd1 Rfb8 22. Qd3 e4 23. fxe4 fxe4 24. Qc4 Qd8 25. Rxa6 Rxa6 26. Qxa6 Rc8 27. Bc4 Ng4 28. Bd4 Bf6 29. Bxf6 Nxf6 30. Qa7 Rc5 31. Qb7 Ng4 32. Re1 h6 33. Qf7 Ne5 34. Qf1 Nxc4 35. bxc4 Qe8 36. b3 Qe5 37. Qe2 Qc3 38. Qxe4 Rc8 39. Qe3 Qc2 40. h3 Rf8 41. Qe7 Qf2 42. Qe3 Qb2 43. Qg3 Qf6 44. Kh2 Rd8 45. Re6 Qb2 46. Rxd6 Rxd6 47. Qxd6 Qxb3 48. c5 Qc3 49. c6 b3 50. c7 Kh7 51. Qf4 Qc2 52. d6 b2 53. d7 b1=Q 54. c8=Q Qcd1 55. d8=Q??



世界記録に迫る5つのクイーンです! しかし、3つ目のクイーンを作った佐野さんにとって、ゲームは悲しい結末を迎えます。

55... Qg1+ 56. Kg3 Qbe1+ 57. Kf3 Qgf2+ 58. Kg4 Qxg2+ 59. Qg3 Qgxg3+ 0-1


この試合を隣で見ながらプレーしていた馬場さんは、格下のロシア人に優勢のポジションからドロー。「佐野が変なゲーム指すからだぞ!」と試合後に言っていました(笑)

他にも知っておいて損のない記録が25個記されていますので、興味のある方は是非、元の記事もチェックしてみてください。

2014/02/24

A Training for Chess Olympiad on 23rd February


ソチでの冬季オリンピックは無事に閉幕を迎えましたが、私たちのオリンピックはまだまだこれからです。先日、ようやく確認が取れて、8月のノルウェー、トロムソオリンピアードの日本代表メンバーが、男子女子ともに確定しました。本日公開された最新の国内レイティング、S93順にメンバーを発表します。

男子代表


南條遼介 2417 (FIDE 2307)
小島慎也 2416 (FIDE 2361)
渡辺暁 2321 (FIDE 2258)
Alexander Averbukh 2286 (FIDE 2179)
三ツ矢直人 2081 (FIDE 2040)

女子代表


橋本あづみ 1601 (FIDE 1718)
星野華怜 1537 (FIDE 1709)
長谷川愛美 1518 (FIDE 1729)
雨宮杏奈 1411 (FIDE UR)
若林ヒサ子 1121 (FIDE 1501)

オリンピアードでのボード順は未定ですが、例年そんなに揉めることもありません。このメンバーであと5か月と少し、準備を整えて試合に臨んでこようと思います。皆さんには今後、あらためて応援をよろしくお願い致します。

そして昨日23日は、都内で行われたトレーニングに参加してきました。集まったのはオリンピアードメンバー4人を含む12人で、少し厳しいスケジュールでしたが、私の提案により25/10 のラピッドを3試合行いました。ペアリングは完全ランダムで決めたため、私は原下さん、上原くん、杉田くんの3人と当たって3連勝。2000台同士の対戦はなかったため、尚広くんと三ツ矢さんも3連勝でした。2000未満だけと試合をさせることに若干の不安もありましたが、彼らも少し課題が見えるような内容のチェスだったため、ペアリングを完全ランダムにしたことは、そんなに問題ではなかったと思っています。私も最近なにかと指す機会の多い、Classical Slav Sokolov's Variation を白黒で2試合指すことができましたし、ポーランドに遠征する杉田くんと初対戦できましたので、満足なペアリングとゲームでした。

Uehara, S (JPN, 1967) - Kojima, S (FM, JPN, 2416)
Training (2)

1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 dxc4 5. a4 Bf5 6. Ne5 Nbd7 7. Nxc4 Nb6 8. Ne5 a5 9. f3!?



久々の対戦となる上原くんが選んだのは、今月のトレーニングで羽生さんもチョイスした9. f3 です。私は直前のラウンドで、原下さんを相手に白で同じポジションを持ち、9. Bg5 を指して勝利を収めています。これでSokolov's Variatin (黒が7... Nb6 と指す変化) での代表的な4種類のライン、9. e3, 9. f3, 9. g3, 9. Bg5 は全て実戦で経験したことになります。

9... Nfd7 10. Nd3?! Bxd3 11. Qxd3 e5 12. dxe5 Bb4!


1月に弘平くんとブリッツを指していて、12... Nxe5 13. Qe4 Qe7 と進み、これは少し違和感があるなと感じていました。それならばe5 のポーンを取り返すのを遅らせて、ビショップの展開を優先するのが面白いだろうと、盤上でひらめきます。f3-f4 のような手で白がポーンを守ろうとすれば、黒の展開のリードが広がりますし、Nd7-Nc5 からb3 のマスへの侵入を見せることで、1ポーン分の代償は十分にあるだろうと判断しました。

13. e4 Nxe5 14. Qc2 Qd4!



私が最も時間を使ったのがこの手です。白はBc1-Be3 と黒マスビショップを展開できれば、fポーンを突いたことで弱めた黒マスをカバーできるでしょう。そこでクイーンを素早くセンターに上げて白の手を妨害し、次にクイーンサイドキャスリングをしてdファイルの支配を試みます。Qd8-Qh4+ の狙いもどこかで有効に働くかと思い、Qd8-Qd4 を指した直後は確信が持てませんでしたが、この先の展開を考えれば、本譜の手が白にとって最も嫌な手だったと言えそうです。

15. Bf4 O-O-O 16. Rc1 Ng6!?


私の読み落としていた16... Nd5! で黒勝勢とコンピュータは指摘しますが、本譜でも問題ないでしょう。

17. Bg3 Qe3+ 18. Be2 Nf4!-+



私の最近のチェスのテーマは「小さなアドバンテージでも勝ちのチャンスは作れる」ということです。最初はこのナイトを取られたら展開のリードが縮まり、少し黒にとって面白くないかと思いましたが、dファイルの支配と黒マスの弱さは、黒に満足なアドバンテージをもたらすでしょう。

19. Bf2?


19. Bxf4 Qxf4 20. Rb1 Qe3-+ でも黒勝勢ですが、本譜は頓死コースです。

19... Nd3+ 0-1



Classical Slav に関して言えば、昨年6. e3 に疑問を持って(もちろん悪いはずのない、もう1つのメインラインです。)、6. Ne5 に切り替えてから5勝3ドロー(ドローはIM Hajnal が2戦と、羽生さんとのトレーニング)、黒でも4連勝中で良い流れがきています。11月にイタリアでGM Rausis に5... e6 の変化で敗れ、失われつつあったSlav への信頼は、すでに十分すぎるほどに取り戻しています。

この日のトレーニング、良い感触を掴めたプレーヤーも、課題の多かったプレーヤーいたかと思います。年度末最大の公式戦である百傑戦まであと1ヶ月を切りましたので、各自そこまでうまく調整をして、満足のいくチェスが指せるようになることを願っています。


昨日の打ち上げは串カツ屋へ。名古屋で食べて以来、8年ぶりな気がします。

2014/02/22

Saturday Lecture on March 8th 2014


Position After 9... Qd5!?

3月のサタデーレクチャーまで2週間となりましたので、今回のテーマを公開致します。来月も池上のチェスセンターにて、よろしくお願い致します。

【日時】 2014年3月8日(土) 10:00~12:00
【会場】 チェスセンター(最寄駅:池上駅)
【形式】 レクチャー+質疑応答
【テーマ】 Advantage and Disadvantage
【テーマ詳細】

チェスのゲームは普通に進めていけば、先手の白がなんらかの形で優位に立つものです。(スペース、展開、攻撃のチャンスなど) 一方で後手の黒は、なんらかの不満を抱えてゲームを進めざるを得ません。しかし、白が自分にどういった優位さがあるのか、それをどのようにいかして指すべきかが分からないと、中盤でプランに困るでしょう。今回はそうした白の優位さをどのように考え、チャンスを広げていくものなのか、また黒がどのように自分の不利さを受け止め、それを解消していくべきなのかということを解説していこうと思います。

【参加費】 午後のサタデートーナメント参加者は午前、午後合わせて1500円、レクチャーのみは1000円
【参加資格】なし
【対象】 レイティング2000未満

2014/02/21

覆す力 - 森内俊之竜王名人 -


今月、小学館から出版された新書、覆す力を購入し、読み始めています。著者は現在、将棋界での2大タイトルである、竜王と名人を保持している、プロ棋士の森内俊之さんです。この本を知ったのは、2日前に森内さんがラジオ番組に出演しているので一緒に見ようと、オリンピアードチームメイトの長谷川さんから誘いを受けたことがきっかけでした。そちらの番組は、女性パーソナリティがゲストの森内さんとトークをしながら、こちらの覆す力を紹介していくという内容でした。

森内さんと私は2009年の頭に出会い、直後の百傑戦で初対戦となります。その後、交流のない期間もありましたが、2011年にはフランスチャンピオン、Vachier-Lagrave との対戦のためのトレーニング、2012年にはCheck Mate Lounge への招待、Check Mate at Tokyo での試合解説、London Chess Classic への参加など、関わりを持つ機会が増えていきました。ハンガリー滞在の長かった昨年も、電王戦の会場でのお話をさせていただいたり、IM ノーム獲得の応援をしていただいたりと、本当にお世話になっています。


2012年の年末、ロンドンで元世界チャンピオンのKramnik に将棋のルールを教える森内さん

覆す力はまだ第2章の途中までしか読んでいませんが、昨年秋の竜王戦の様子や、私の知らなかった森内さんの幼少期のエピソードなどが語られており、非常に興味深く読ませてもらっています。(森内さんのファンからすれば、それぐらい常識だろ! と怒られてしまいそうですw) 途中、チェスについての記述も少し出てくるという噂を耳していますので、今後も楽しみに読ませてもらおうと思います。

そして第1章を読んだだけでも印象的だったのは、将棋のプロの世界でどうやって戦うかという、勝負への姿勢や哲学(私がブログで文字にすると、途端に安っぽく見えるのが困りものです。) についてです。私もチェスを始めて13年、人生の半分以上をチェスと関って生きてきましたが、森内さんや羽生さんら、将棋のトップ棋士たちからすれば、まだまだ駆け出しの未熟者です。本書を読み終えた後は、また森内さんとお会いして、将棋やチェスのことを色々とお話しさせていただきたいと思います。

2014/02/20

Chess in Georgia Vol.1


昨夜、Facebook では、Chess News に掲載されていたボツワナのチェスの記事(こちらもおススメです!)について触れたのですが、こちらのブログでは、また違う国について2回ほどに分けて触れてみようと思います。分類が西アジアなのか東ヨーロッパなのかは難しいところ。チェスの世界ではヨーロッパだと考えるのが一般的でしょうかね。タイトルにある通り、扱うのはグルジアです。

グルジアはトップ10名の平均レイティングによる世界ランキングが16位、GM 数は27人で、私が留学していたハンガリーほどではないにしろ、世界的にチェスのレベルの高い国です。特に女子プレーヤーのレベルは高く、1962年から1978年まではNona Gaprindashvili, 1978年から1991年まではMaya Chiburdanidze と、2人のグルジアの女子プレーヤーが30年もの間、女子の世界チャンピオンの座を守ってきました。私がチェスを始めた頃、グルジアの女子のレベルが高いと聞いて、それがなぜなのか理解できていませんでしたが、それもそのはずです。91年のソ連崩壊まで、グルジアは世界最強のチェス国家、ソ連の構成国でした。(それを踏まえれば、2人の女子チャンピオンも、ソ連人だと考えるのが正しいかもしれません。)

91年以降は、中国女子のレベルが上がり、初の中国からの女王となったXie Jun, カタールのGM Al-Modiakhi と結婚してカタールに移籍し、中国チェス界を揺らしたZhu Chen らが台頭し、現在はその後を継いだHou Yifan が女子世界チャンピオンとなっています。それでも女子のレベルが高いのはどこなのか聞かれれば、現在でも中国やグルジアだと答えるでしょう。GM のタイトルを持つ女子プレーヤーが3人以上いるのは(WGM じゃないですよ!)、 世界中を見渡してもロシアとウクライナと中国、そしてグルジアだけです。


チェコではWIM Abdumalik のコーチを務めていた、グルジアのGM David Arutunian

一度、女子から話題を切り離しましょう。私個人の感想ですが、グルジアに24人いる男子のGM たちは、プレーヤーであると同時に、コーチ業を多く務めているような印象を受けます。私がチェコで出会ったカザフスタンの少女、Abdumalik はコーチにグルジアの有名なGM David Arutunian を連れており、ヨーロッパ遠征を行っていました。(その遠征は現在も継続中のようです。) そして、ヨーロッパ以上にグルジアのGM を多く見かけるのは、グルジアから遠く離れたアメリカです。アメリカの大きな大会では、驚くほどグルジアのGM の姿を見かけ、聞けば彼らはグルジアを離れてアメリカでのコーチ業を主に行っているそうです。プレーヤーの数や大会の規模を考えれば、アメリカに渡るほうがチェスコーチとして稼げるのでしょうね。私がアメリカの大会で会ったGM は、Gelashvili, Jojua, Sanikidze, Kekelidze らでしょうか。グルジアのランキング5位の GM Gelashvili とは、3年前に対戦もしています。

Kojima, S (FM, JPN, 2328) - Gelashvili, T (GM, GEO, 2616)
World Open (6)

1. Nf3 Nf6 2. c4 e6 3. g3 a6 4. Bg2 b5 5. b3 c5 6. Nc3 Qb6 7. e4 d6 8. d4 Bb7 9. d5 e5 10. O-O g6 11. Qe2 Bg7 12. cxb5 O-O 13. Nd2 axb5 14. Qxb5 Qc7 15. Qd3 Ba6 16. Nc4 Nbd7 17. Nd1 Nb6 18. Nde3 Bh6 19. f4 Nfd7 20. Bb2 Bg7 21. Qc2 Rfb8 22. Rfd1 Nxc4 23. Nxc4 Bxc4 24. Qxc4 Rb4 25. Qe2 exf4 26. Bxg7 Kxg7 27. gxf4 Qd8 28. Rac1 Qf6 29. Rf1 Kg8 30. Kh1 Qg7 31. e5 dxe5 32. fxe5 Qxe5 33. Qxe5 Nxe5 34. Rxc5 Rxa2 35. d6 Rg4 36. Bh3 Rh4 37. Rc3??



シンプルに37. Bg2 と戻っていれば、黒からはあまりうまい手がなく、ドローにするぐらいが関の山でした。

37... Rd2 38. Re1 Ng4 39. Bxg4 Rhxh2+ 40. Kg1 Rhg2+ 0-1


この久々のアメリカでの大会、前半は好成績でしたがこの黒星から大きく崩れてしまいました。それでも、強豪国グルジアの代表クラスと試合ができたのは、3年前の私にとって大きな経験となったのです。

今回、グルジアのトッププレーヤーについて記事を書こうと思ったのですが、調べてわかったことプラス、私の経験から、書きたい内容が多くなってしまったので、2回のシリーズに分けることにしました。次回の記事でスポットを当てるのは、グルジア不動のトップGM Jobava Baadur です。

Vol.2 に続く

2014/02/19

My Game Analysis - Noguchi - Kojima -


今月は羽生さんとのトレーニングぐらいしか実戦の機会がなく、珍しく公式戦の予定はありません。試合から離れることもそうですが、棋譜の解説をあまり書かないと腕が鈍るので、先月の試合から面白かったものを1つ、今日は取り上げようと思います。

Noguchi, K - Kojima, S
5th IV League (4)

1. c4 c6 2. g3 d5 3. Bg2 Nf6 4. Nf3 dxc4 5. Qc2!?



第5回のIV リーグから、野口さんとのゲームです。このc4 を取る変化は、一昨年のロンドンで、アメリカのIM Bartholomew に敗れました。その試合を検討した結果、やはり白が指しやすいのではと思ってしばらく封印していましたが、考えてみればオープニングでわずかに白が良いのは当然のことです。3連勝の野口さんをつかまえるため、勝たなければいけないこの試合で、復活をかけた投入です。

5... b5 6. a4 Bb7 7. b3!


この1ポーンサクリファイスが白の重要なアイディアで、c5 のマスを抑えてc6-c5 を防ぐことで、長期的にb7 のビショップを使えないままにしてポーンの代償をはかります。

7... cxb3 8. Qxb3 a6 9. Ba3 Nbd7 10. O-O e6 11. Bxf8 Kxf8!?



黒はキャスリングの権利を失いますが、キングの安全性は問題ありません。あとは白のセンターポーンに、抑え込まれたビショップでどう対抗するかという問題を解決するのみです。

12. Nc3 g6 13. d4 Kg7 14. e4 Qb6 15. Rfd1?!


私はこの手が遅いのではないかと、試合後に野口さんに指摘しました。15. e5! Ne8!? (15... Nd5 16. Nxd5 cxd5 ならば、b7 のビショップを活用するチャンスはなく、白には十分なポーンの代償があると判断できます。) と進めば、本譜に比べて黒はルークの位置が悪く、e4 にマスを作った白は十分に戦えそうです。

15... Rhd8! 16. Rab1 Rac8 17. e5 Ne8 18. Ne4 c5!



e4-e5 を数手遅らせてしまったせいで、黒の指しやすさは段違いです。こうしてポーンを伸ばして白のセンターを崩し、白マスビショップも活用できるとなれば、白がポーンの不足分を求めるのは難しくなるでしょう。

19. Nfg5 cxd4 20. axb5 Nxe5!-+


シンプルに白のセンターを消し去り、最後のアタックを捌いてしまえばゲームオーバーです。

21. Qa3 axb5 22. Nxh7 Bxe4 23. Qf8+ Kxh7 24. Bxe4 Nd6 25. Qe7 Nxe4 26. Qh4+ Kg7 27. Qxe4 f6 0-1



白はピースの代償がなく、ここで試合を諦めるのも仕方ありません。純粋なSlav でも、c4 のポーンを取ってb7-b5 と指すラインは、ポーンの代償を考えるのがなかなか難しいでしょう。それを実戦で試すことができ、良い経験になったゲームでした。

2014/02/18

Rubinstein Master - GM Ivan Sokolov -

今年、IM を真剣に目指すことをふまえて白番のオープニングを見直してみたところ、1つ気になる形がありました。それがNimzo-English と呼ばれる以下のポジションです。

1. Nf3 Nf6 2. c4 e6 3. Nc3 Bb4



全てのNimzo-Indian プレーヤーが、黒でこの形を指すわけではないと思いますが、考え方は分かりやすいと思います。これに対し、1.Nf3 の研究を始めた当初は、4. Qc2 から、a2-a3 を突き、ダブルビショップで勝負をするラインを指すことを決めていました。しかし、これがまったくもって私とマッチせず、ノルウェー、ルーマニア(No.1 GM のNisipeanu!)、スウェーデンのマスターたちに、ことごとく敗れる結果となりました。3試合ぐらいでなにをぐだぐだ言ってるのかと思われるかもしれませんが、昨年のFS GM クラスの最終戦、ドローでIM ノーム確定のゲームで、スウェーデンのFM Westerberg に何もできずに負けたことのショックは非常に大きいものでした。(最終戦、負けたのにIM ノームを獲得できたのは、完全にラッキーでした。)

それから昨年秋にハンガリーを離れるまで、3. Nc3 ではなく、3. g3 と指してCatalan にするアイディアも試してきましたが、3... Bb4 に対する苦手意識を完全に払拭できないのは癪なので、また少しこちらのラインを調べ直しています。そこで私の頭に昨日ぐらいから浮上してきたのは、Nimzo-Indian のメインライン中のメインラインとも呼べる、Rubinstein Variation を白で指すという選択です。

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nc3 Bb4 4. e3



この変化は黒で散々アイディアを研究しながらも、白で指すという考えはこれまで欠片も頭にありませんでした。しかし、考えてみればそこまで白でこの変化を嫌がる理由は何一つとしてありません。今年、自分のチェスの幅を広げるためにも、このNimzo-Indian のメインの変化にチャレンジしてみようと思います。1. d4 を指しても良いですし、ラインは限定されますが、1. Nf3 から入るのもありでしょう。


Dutch GM Ivan Sokolov, Chessdom より

そして私が新しいオープニングを調べる際に必ずやるのは、そのラインでのゲームを多く指し、モデルとしやすいGM を探すことです。Rubinstein ならば、Aronian かなと思っていましたが、調べてみると意外とゲームが多くありませんでした。そこで初めて、このGM にスポットを当ててみることにします。それがオランダのNo.3 GM Ivan Sokolov です。

Sokolov は現在、レイティングが2650、世界ランキングは100位をわずかに割る位置です。あまり詳しく知らないプレーヤーも多いかもしれません。私としても、オランダ代表の一人で、かつてカペルで見かけたことがある(しかし、不調でどこのボードで試合をしていたかよくわからなかった...) ぐらいの印象でした。しかし、もう少し深く考えてみれば、かつてKasparov をRubinstein Variation で破ったゲームは有名ですし、彼の著書であるWinning Chess Middlegame は、前半とにかく彼のNimzo-Indian Rubinstein Variation のゲームが多く使われています。そこで今回、Rubinstein Variation を調べるにあたり、最初の師匠と仰ぐべきは彼なのではないかと考えたわけです。(これを伝えるためだけの、長すぎる前置きでしたw) 実際調べてみるとSokolov は白番で100試合近くRubinstein Variation を指しており、勝率もかなり高いです。今日並べたゲームの中で、面白かったゲームを一つ紹介しておきます。

Sokolov, I (GM, NED, 2657) - Maze, S (GM, FRA, 2579)
EU-ch 10th (11)

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nc3 Bb4 4. e3 O-O 5. a3 Bxc3+ 6. bxc3 d5 7. cxd5 exd5 8. Bd3 c5 9. Ne2 b6 10. O-O Ba6



白の最も危険なピースである白マスビショップを交換することは、黒として最もロジカルなプランだと言えそうです。しかし、それでも白はセンターとキングサイドでアドバンテージを主張します。

11. f3! Re8 12. Ng3 Qc8 13. e4 cxd4 14. cxd4 Bxd3 15. Qxd3 Qa6


クイーンをこのように使い、交換を持ちかけるのが黒のQd8-Qc8 のアイディアです。(こうした少し凝った手の作り方は、日本のプレーヤーに見習ってほしいと思います。) これに対して白は当然、このクイーン交換を避けます。

16. Qe3! Nc6 17. e5 Nd7 18. f4 Qa4 19. Bb2 Na5 20. Qf3 Qb3 21. Bc3!



こうしたポジションで私が難しいと考えるのは、クイーンサイドからのカウンタープレーにいかに対応しつつ、キングサイドでのアタックチャンスを求めるかです。このバランスを間違えると、クイーンサイドを突破され、白は駒か攻撃のチャンスを失うでしょう。

21... Rac8 22. Ne2!


ナイトはf5 に向かうものだとばかり思っていたので、ここで一度守りに使うのが面白いアイディアだと感心しました。このナイトはまた別のルートで攻撃に戻ってきます。

22... Qb5 23. f5 Nf6 24. a4 Qa6 25. Nf4!



a5 を取る選択肢もありそうですが、こうしてd5 の孤立ポーンを攻撃すれば勝負ありです。マテリアルは1ポーンダウンでも、黒のセンターからキングサイドにかけての負担はとても大きいものです。

25... Ne4 26. Nxd5 Nxc3 27. Nxc3 Nb3 28. Rad1 Qa5 29. Ne4 1-0


Sokolov のプレーについては、これから彼の著書も読みつつ、勉強させてもらおうと思います。

2014/02/15

My Game Analysis by An English Boy


記事の掲載されたBritish Chess Magazine 1月号

今日はあまり時間がないのでサクッと簡単な記事にします。昨日Twitter をチェックしていたところ、イギリスのチェス雑誌に私のハンガリーでの試合が投稿されているという話題を見かけました。そんな馬鹿な... とチェックしてみましたが、どうやら本当のようです。扱われていたゲームは10月のFS GM クラスのSean とのCaro-Kann の棋譜で、解説を書いたのは、かつての日本の小学生チャンピオン、現在はイギリスでプレーするFM Franklin Samuel くんです。私とはかつて、日本で2回の対戦経験を持っています。

日本のページで、この解説が日本語訳されてる記事があったので、昨晩はそれに目を通してみました。私のあまり考えていなかったアイディアや細かなラインが載っており、Samuel くんがよくこのゲームを解析していることが分かります。しかし気になるのは、なぜ彼がBritish Chess Magazine での記事に、私とSean の試合を扱ったのか、そしてなぜ記事を書く際、私に一言もかけなかったかということです(笑) 彼とはFacebook で繋がっていますので、事後でも記事を出したことを知らせてくれても良いはずです。

もちろん、私の試合がイギリスの有名なチェス雑誌で取り上げられたことは光栄ですし、無断でゲームを使われたことを怒っているいるわけではありません。それでも次に会ったとき、1回くらいチョップを食らわせておこうと思います(笑) カペルで参加するようならば、日本から参加する6名の誰かに代理を頼んでおきましょう。

2014/02/13

The Highest Level Training In Japan In February 2014


寒さの続く中、今月の羽生さんとのトレーニングの日を迎えます。このトレーニングも、12月の帰国以来3か月連続となり、すっかり習慣となりました。1月は他のプレーヤーも呼んで多人数でにトレーニングでしたが、今月は再び2人に戻ります。いつも通り、午前中のラピッドからスタートです。

Habu, Y (FM, JPN, 2415) - Kojima, S (FM, JPN, 2361)
Training (1)

1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 dxc4 5. a4 Bf5 6. Ne5 Nbd7 7. Nxc4 Nb6 8. Ne5 a5 9. f3!?



先月のトレーニングでは弘平くんと指したSlav Classical の6. Ne5 が登場します。私も白でこのポジションを持つので、9手目は何を指すか頭を悩ませるところ。羽生さんはf3-e4 からセンターポーンを伸ばすプランをチョイスしました。

9... Nfd7 10. e4!? Nxe5 11. exf5 Ned7 12. d5 g6! 13. dxc6 bxc6 14. Qd4 Rg8 15. Be3?!


この新手はあまり有効とは言えなさそうです。ルークをアクティブに働くことを許しても、15. fxg6! Rxg6 16. Qf2!? と指すのが正解でした。白はダブルビショップ、黒は早い展開でバランスは取れています。

15... gxf5 16. Rd1 e6 17. Nb5?



アイディアとしてはありえるだろうと思っていましたが、さすがにこのタイミングではやりすぎです。単純にピースを取っても良さそうですが、少し考えてもっと安全な手をチョイスします。

17... Nd5!-+


ターゲットとなるb6 のナイトをあらかじめ逃がしつつ、Bf8-Bc5 をスレットにします。b5 のナイトを頂くのは、それからでも遅くありません。

18. g3 cxb5 19. Bxb5 Rc8! 20. Qa7 Rc7 0-1



白は最後のクイーンの飛び込みも働かず、ここでゲームオーバーです。ちょっと羽生さんらしくないゲームでした。

そして検討と多少の研究の後、羽生さんからハンガリー料理を食べにいこうとのお誘いが! 1月に私が近くでハンガリーレストランを見つけたのですが、前回の集まりでは休日だったため、満席で入れなかったのでした。私が再び行きたがっていたこと、覚えていてくださってありがとうございます!


そんなハンガリー料理でまったりランチ。羽生さんはパプリカを使ったハンガリーの伝統スープ、グヤーシュのセット、私はエビのクリームコロッケとポークソテーのセットでした。私の頼んだセットは、あまり懐かしいハンガリーの味ではなかったかも(笑) 一方で、とてもポピュラーなハンガリー料理は、羽生さんに気に入っていただけたようで何よりです。

昼食の席では、相変わらずチェスの研究の話や仕事の話を。1時間弱の昼休みののち、色を交代して2試合目です。

Kojima, S (FM, JPN, 2361) - Habu, Y (FM, JPN, 2415)
Training (2)

1. Nf3 d5 2. d4 Nf6 3. c4 e6 4. g3 dxc4 5. Bg2 Nc6 6. O-O Rb8 7. Bg5!?



少し悩みましたが、Catalan にすることにしました。このラインは黒が多少のリスクを伴いながらも勝ちにいくチャンスを作れるので、白もどう対応するべきか難しいところです。

7... Be7 8. e3 O-O 9. Nfd2


Rb8 ではなくa6 の形ですが、9. Qc1!? と指す手をPostny の試合で見たのに、試合中は忘れていました。(そして、検討ですぐに思い出すという...) アイディアは黒のc4-c3 を防いでおきつつ、隙を見てb2-b3 から1ポーンを捨て、aファイルとc5 のマスのコントロールで戦うというものです。

9... e5! 10. Bxf6 Bxf6 11. d5 e4 12. Nc3



検討では、もう1つの手の可能性も深く掘り下げます。12. Nxc4 b5 13. dxc6 bxc4 14. Nc3 Rxb2 15. Nxe4 c3!-/+ 黒の15手目は見落としていましたが、別の変化を羽生さんと考えることで、たくさん勉強させてもらいました。こうしたポジションでアイディアを出し合うことは、このトレーニングの大きな目的だと思っています。

12... Bxc3 13. bxc3 Qxd5 14. Bxe4 Qc5


黒のダブルポーンがもう少し悪い形であれば、白もポーンの代償があると考えたいところですが、このポジションではd3 の重要なマスを抑えられているため、むしろ黒のダブルポーンはよく働いていると判断できそうです。

15. Qe2 Ne5! 16. Rfd1 Bg4!-+



指される直前まで、少しこの手を過小評価していました。e3 のポーンを弱めては、白が戦いを続けることは難しくなるでしょう。

17. f3 Bh5 18. g4 Bg6 19. Bxg6 fxg6 20. Kg2 b5 21. f4 Nd3 22. Qf3 Rbe8


シンプルですが、e3 にプレッシャーをかければ、黒は決定的なアドバンテージを掴むでしょう。最初、次の手はNd2-Ne4 を考えていましたが、Qc5-Qe7 で何事もなくe3 が落ちて終わりでした。

23. Nf1 g5 24. f5 g6 25. e4 Qe5 26. Ng3 Qxc3 27. Kh1 Qd4 0-1



この日は互いに白のプレーに冴えがなく、1勝1敗でした。(ブログの記事タイトルは、改めなければいけないかもw) その後、ブリッツ4試合、そして羽生さんの提案したポジションの研究と進み、7時間ほどのトレーニングはあっという間に終了したのでした。羽生さんが時間を取れるようであれば、また来月もトレーニングをお願いしたいと思います。

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