2014/02/26

Chess in Georgia Vol.2


今月、Bronstein Memorial で優勝した、グルジアのGM Jobava Baadur(左), Chess News より

私にとって2度目の大きな国際大会は、2006年の5月、イタリアのトリノで開催されたオリンピアードでした。その際、私はどこかのサイトで見たことのある顔を試合会場で見つけますが、それが誰だったか思い出せません。佐野さんにそのGM が誰かを尋ね、答えを聞いてなるほどと納得しました。それはグルジアの現No.1 GM、Jobava Baadur でした。

Jobava は1983年生まれ、グルジアで唯一の2700台プレーヤーです。顔こそ2006年に覚えたものの、他の2700台に比べて少しプレーの印象が薄く、どんなプレーヤーなのかは長らく興味を持っていませんでした。それが今年のTata Steel Group B で彼を見かけ、ゲームをチェックしているうちに、そのオープニングのチョイスにたまげました。昨年からの試合もチェックしてみましたが、Jobava のチェスはまるで、オープニングのアドバンテージなど勝敗には何も関係ないと言っているかのようです。

Jobava, B (GM, GEO, 2710) - Bok, B (GM, NED, 2560)
Tata Steel (Group B) (10)

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Be2!?



私はライブを見ていて、「そんなのありかい!」と思わずパソコンにつっこみそうになりましたが、Jobava はこのオープニングを今月も使い、Bronstein Memorial でも勝利を収めています。Reversed Phildor (あまり聞きませんが) のような形になるので大きな問題はありませんが、白で積極的にアドバンテージが取れるとは思えません。

3... Nf6 4. d3 d5 5. Nbd2 Bc5 6. c3 a5 7. a4 O-O 8. O-O Re8 9. h3 h6 10. Qc2 b6 11. Re1 Bb7 12. Nf1 Bd6 13. Ng3 Ne7 14. Nh4 c5 15. Bg4 c4 16. dxc4 Nxe4 17. Rxe4 dxe4 18. Bxh6 Bc5 19. Rd1 Qc7 20. Qc1 e3 21. Bxe3 Bxe3 22. Qxe3 Qxc4 23. Nh5 Qe4 24. Qg5 Ng6 25. Kh2 Bc8 26. f3 Qc2 27. Rd6 Bxg4 28. hxg4 Kh7 29. Nxg6 fxg6 30. Nf6+ gxf6 31. Rd7+ Kg8 32. Qxf6 1-0



途中、怪しげな駒捨てをバシバシと行い、最終的にはオランダのホープ、Bok のキングを捕まえました... もう1つ、今年のTata で感心したのは、Jobava の以下のゲームです。

Jobava, B (GM, GEO, 2710) - Zhao, X (GM, CHN, 2567)
Tata Steel (Group B) (3)

1. d4 Nf6 2. Nc3!?



今度は1. d4 でスタートし、しかもトップGM ではほとんど見られない2. Nc3 です。(Bok 戦よりも前のラウンドですが) Jobava は、この大会、1. d4, 1. e4, 1.b3 の3種類の初手を使い、いずれも勝利を収めています。

2... d5 3. Bf4 a6 4. e3 e6 5. Nf3 c5 6. a3 Nc6 7. h3 b5 8. dxc5 Bxc5 9. Bd3 Bb7 10. O-O Bd6 11. Re1 O-O 12. Bxd6 Qxd6 13. e4 dxe4 14. Nxe4 Nxe4 15. Bxe4 Qe7 16. Qd2 Rfd8 17. Qf4 Na5 18. Bd3 Qf6!?


ここでクイーンをぶつける手自体は悪くなかったはずです。しかし、このクイーン交換でポーンストラクチャーを乱したことが、後々エンドゲームで影響を与えます。それにしても、このポジションを見ると、一風変わったオープニングでしたが、割と普通の局面に落ち着いています。

19. Qxf6 gxf6 20. Nd2 Rac8 21. b4 Nc4 22. Nxc4 bxc4 23. Bf1 Rd2 24. c3 Bd5 25. Re2 Rxe2 26. Bxe2 Kf8 27. Rd1 f5 28. Rd4!



駒を捌き、少し形勢が怪しくなってきました。黒はc4 の孤立ポーンが負担になり、ピースを自由に動かすことができません。

28... Kg7 29. a4! Kf6 30. a5! h6 31. g3 Rc7 32. Kf1 Rc8 33. Ke1 Rc7 34. Kd2 Rc8 35. Ke3 Rc7 36. Bf3!


キングが上がった後は、ビショップを交換して十分に勝ちのチャンスを作れそうなルークエンディングに持ち込みます。

36... Bxf3 37. Kxf3 Rc6 38. Rd7 h5 39. Ke2 e5 40. Rb7 Ke6 41. h4 Rd6 42. Rb6 Kd5 43. Rxd6+!



このエンドゲームはどこかのレクチャーで使うつもりでしたが、もう今日の記事で紹介してしまいます。エンドゲームで最も複雑なのはルークエンディング、そしてシンプルなのはポーンエンディングです。勝ちのポーンエンディングだと見切ったならば、ルークは消してしまうに限ります。

43... Kxd6 44. f3 e4 45. Ke3 Kd5 46. Kf4 f6 47. Ke3!


このキングを戻す手でツークツワンクです。黒はポーンを取りにいくほかなく、パスポーンを作るという唯一の反撃のチャンスは失われます。

47... exf3 48. Kxf3 Kd6 49. Kf4 1-0



b4-b5 のブレイクスルーを防ぐため、黒キングはeファイルに寄ることができず、黒はfポーンを守ることができません。白がa5 までポーンを伸ばしたのは、このブレイクスルーのチャンスを作るためでした。

Jobava のゲームを見る限り、他にも怪しげなオープニングがたくさん飛び交っていますが、それでも彼は勝利を収め、2700のレイティングを維持しています。こうしたチェスが指せるのは、オープニングで相手の研究に付き合わずとも、ミドルゲームでのタクティクスやプランニング、そしてエンドゲームに自信があるからでしょう。オープニングばかり勉強しすぎと言われる日本のプレーヤーも、こうした幅広いプレーができると良いのかもしれませんね。これからEuropean Championship も始まりますし、今年はもう少し、Jobava や他のグルジアのGM のプレーにも注目してみようと思います。

Jobava Baadur (Chessgames)

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